Amanda

吐き溜まり。

絨毯

昔々あるところに、愚かな王様が大きくて広い、冷たい床のあるお城に住んでいました。
お城の中は大きくて広くかったため、冷たい床は一層冷たく王様は非常に困っていました。
そこで、悪魔のような顔つきの執事に「この冷たい床では暮らせない」と毎日毎日溢していました。
ところで、このお城の床には悪魔のような影のシミがあるのですが、ある日、執事は、床のシミを見てお城の床一面に絨毯を敷くことを思いつきました。
さっそくその考えを王様に伝えると王様は舞い踊り、国中のなかで一番の絨毯職人にお城の絨毯を作らせるように執事に命令しました。


 
 
愚かな王様に命令を受けた悪魔のような顔の執事は国中のなかで一番の絨毯職人を探し出し、これは重要な命令であると重々重々申しつけ、絨毯職人はそれはせっせと絨毯を作り始めました。
それは、毛足の短く、それでもあたたかい、素足で踏むと獣の毛のようで、しかし、人間の温もりのような肌触りのある絨毯でした。
絨毯職人は、大きくて広いお城に住む王様のために、朝も夜も絨毯を作り続け、ようやく七十七日かけて絨毯を作り上げました。
 
 

 

愚かな王様はその素晴らしい日とあたたかい絨毯を待ちわびに待ちわびていましたが、とうとうその絨毯を踏む日がやってきました。
国中のなかで一番の絨毯職人は王様と悪魔のような顔つきの執事の前に傅いて、絨毯が大きくて広いお城中に敷かれるのを待っていました。
最後の絨毯が王様の前の前までに敷かれ、それが最後の絨毯であると告げられると、王様は困ったように呟きます。
「これでは私が踏む絨毯がないではないか。」
すると、そのつぶやきを目ざとく耳にした、悪魔のような影のシミが執事に取り付いて囁きました。
執事はの考えの及ばぬ間に、「この絨毯職人目を王様の玉座の前の絨毯に!」と、声高らかに執事が叫んだかと思うと、悪魔のような影のシミは王様と執事と絨毯職人に承知しましたと微笑み、絨毯職人の体は腕から延ばされ背中を熨され、玉座の前の絨毯にしてしまったのでした。

双頭

古本屋で創元推理社を物色していると、ねえと肩をたたかれた。
振り向いたらば、斜め後ろにいた女性はぎょっとした顔をして、そのまま言葉も出なくなってしまったようだ。
私たちには頭が二つある。
私、美幸の頭と弟の幸雄の頭だ。
二つの頭が私の体である一つの体の首から生えているのである。
「間に合ってます」
そう幸雄が返し、私たちは人を避けるようにして古本屋を出た。


さっきの人かわいかったね、タリーズでサンドイッチを食べながら幸雄は私に話しかけた。
「お母さんが夕飯作ってるからあんまり食べないでよね」
「しかたないよ。」
二人分の頭がエネルギーを欲しがってるんだから。
「それにさ、僕達はもう高校生なんだから食べ盛りってやつさ。美幸、もしかしてダイエットでもしてるの?」
やめたほうがいいよ。美幸はそのままでもかわいいから。
別に、してないよ。
「今年は寒さがちょっと長いね。」


私と幸雄は双子で、生まれた時からこうだった。
二人つのあたま、一つの体、――それは女性の体であったが――美幸と幸雄、そして美幸の体で生活をしてきた。
時折、母に連れられて病院へ行き、検査をする。変わりないですね。そのあと、先生と母だけで先生と話をする。
きっとこれからの話をしているに違いない。
今年、私たちは高校三年生になった。


「美幸、起きて。美幸。幸雄が。」
ある朝、母に起こされ、手を引かれながら病院に向かった。幸雄は呼ばれず、私と母と父だけがタクシーで病院へ向かった。


「5時ごろでした。血圧が徐々に落ちて、それに伴い心拍数が少なくなって、心停止となりました。」
先生の説明がゆっくりと病室に流れながら、白い顔をして幸雄はベッドで眠っていた。
17年とちょっと、ベッドの中で夢を見ていたのだろうか。


それとも私が、長い夢を見ていたのだろうか。


fin.

2019年5月の短歌

幻の遠の国より帰り来る赤き光が蠢いている

 

光より遅く到し轟で気づいて寄って窓に額付く

 

ありふれた日々の端っこと端っこ切って眺めるのが趣味なんです

 

ゆらゆらと毛茸が揺れる奥底はちらり透けたり視えなかったり

 

春風の香りは車窓の向こう側ホットシェフだけ匂いがわかる

 

あのころきみはデザートフォークぼくふわふわのケーキでつつんでた

 

ラジオからアメスピの歌ぷかぷかと知らん顔して吾は蕎麦すする

 

上目遣い縁取るまつ毛の揺れみると視界はぐらりピンとはずれる

 

かかる息もう白くは曇らない体温よりも暖かな硝子

 

白光を反射し上る膝裏を目を細め追う駅前通


主が枯らすいちじくの木を仰ぎ見てドライになったと甘き実を食む


オーロラとポールはクロスしないって案内図見て漸く理解


輝くのは兎の眼 1ダースの目八百屋に並ぶ


ふりしきる桜の花を避けながらつま先だけは夏にはみ出る


我が家に歯にまつわること上に投げ下には捨つれば良き歯が生えぬ


ッタタターンを575にしたくって口をつの字に尖らせてみる


煮詰まったこの数日をふやかして虹の卵スープにして飲む


海離れ恋しとエビが涙してアメリケーヌは塩辛くなり


仄白い意識の底をひた泳ぎひそむ子供の呻きが聞こゆ


びんと張る木綿のシャツを帆に見立て初夏の風受け青空渡る


暗闇の布団で澱む初夏の夜を濯ぐ冷たい風流れてく

 

森で会う熊と戦う想像の中なら私、凄腕狩人

 

長袖の白きが眩む夏が来て長袖の様な産毛刈り取る

2019年4月の短歌

れーわという新しい章みずからの次の一歩と重ね描いて

 

目瞑ればなんども触れたような手の触った快を思い出すよな

 

会館で触れた指先快感で私、今では繋ぐのが好き

 

キイキイと口腔うごめく振動の爽やかなりし後の粘膜

 

きみが撮る真を写すいままでもこれからも一人そんな気がする

 

柱揺るがすような話だめなんだ一度だめならもうだめなんだ

 

私僕わたくしわたしあたしわたし君あなた君あなた君君

 

寒いねと、そっと振り向く。アップルのジュース持ってる、女の子たち。

 

1パーの黄色のリミット暇という概念理解しだしたスマホ

 

キャンバスに轢かれた緑の十字架に泣いてる何故か許された気して

 

残り香がバナナチップス八年前の部屋のあなたの匂いと違う

 

目覚めればカラフルなきのこ生えているベッドサイドの絵の具ボックス

 

しらべずにだらだらアニメみたけれどあ、まてこれは1話飛ばした

 

会ったなら何か変わったかなという夢ザーッというテレビに似てる

 

フードをぐっと抑えられて肌寒い首すじがまだ去年の秋にいる

 

お前それ行く気あんのか約束の時間すぎてて下着の女

 

今年のはいらないきみと見られない早く散れ散れ何が桜だ

 

にんべんに主って書いて住なんだよいないんだから家賃返せよ

 

家にいるはずがすがたの見えぬ母ざーっと水音だけが流れる

 

生き埋めにするよな籠のとりのよな母よアラサーだよもう私は

 

逢ふという契り交わさぬ待ち人の現れぬままTL流れて

 

工房で我が削りし腕環の軽きは我に似、身を捨つぬがに

 

溜息と身体の重きはズー園河馬の溜池の濁りに似てる

 

サイレンの音で目覚める明け方の音重なるは人災掠め