Amanda

吐き溜まり。

双頭

古本屋で創元推理社を物色していると、ねえと肩をたたかれた。
振り向いたらば、斜め後ろにいた女性はぎょっとした顔をして、そのまま言葉も出なくなってしまったようだ。
私たちには頭が二つある。
私、美幸の頭と弟の幸雄の頭だ。
二つの頭が私の体である一つの体の首から生えているのである。
「間に合ってます」
そう幸雄が返し、私たちは人を避けるようにして古本屋を出た。


さっきの人かわいかったね、タリーズでサンドイッチを食べながら幸雄は私に話しかけた。
「お母さんが夕飯作ってるからあんまり食べないでよね」
「しかたないよ。」
二人分の頭がエネルギーを欲しがってるんだから。
「それにさ、僕達はもう高校生なんだから食べ盛りってやつさ。美幸、もしかしてダイエットでもしてるの?」
やめたほうがいいよ。美幸はそのままでもかわいいから。
別に、してないよ。
「今年は寒さがちょっと長いね。」


私と幸雄は双子で、生まれた時からこうだった。
二人つのあたま、一つの体、――それは女性の体であったが――美幸と幸雄、そして美幸の体で生活をしてきた。
時折、母に連れられて病院へ行き、検査をする。変わりないですね。そのあと、先生と母だけで先生と話をする。
きっとこれからの話をしているに違いない。
今年、私たちは高校三年生になった。


「美幸、起きて。美幸。幸雄が。」
ある朝、母に起こされ、手を引かれながら病院に向かった。幸雄は呼ばれず、私と母と父だけがタクシーで病院へ向かった。


「5時ごろでした。血圧が徐々に落ちて、それに伴い心拍数が少なくなって、心停止となりました。」
先生の説明がゆっくりと病室に流れながら、白い顔をして幸雄はベッドで眠っていた。
17年とちょっと、ベッドの中で夢を見ていたのだろうか。


それとも私が、長い夢を見ていたのだろうか。


fin.