2019年5月の短歌
幻の遠の国より帰り来る赤き光が蠢いている
光より遅く到し轟で気づいて寄って窓に額付く
ありふれた日々の端っこと端っこ切って眺めるのが趣味なんです
ゆらゆらと毛茸が揺れる奥底はちらり透けたり視えなかったり
春風の香りは車窓の向こう側ホットシェフだけ匂いがわかる
あのころきみはデザートフォークぼくふわふわのケーキでつつんでた
ラジオからアメスピの歌ぷかぷかと知らん顔して吾は蕎麦すする
上目遣い縁取るまつ毛の揺れみると視界はぐらりピンとはずれる
かかる息もう白くは曇らない体温よりも暖かな硝子
白光を反射し上る膝裏を目を細め追う駅前通り
主が枯らすいちじくの木を仰ぎ見てドライになったと甘き実を食む
オーロラとポールはクロスしないって案内図見て漸く理解
輝くのは兎の眼 1ダースの目八百屋に並ぶ
ふりしきる桜の花を避けながらつま先だけは夏にはみ出る
我が家に歯にまつわること上に投げ下には捨つれば良き歯が生えぬ
ッタタターンを575にしたくって口をつの字に尖らせてみる
煮詰まったこの数日をふやかして虹の卵スープにして飲む
海離れ恋しとエビが涙してアメリケーヌは塩辛くなり
仄白い意識の底をひた泳ぎひそむ子供の呻きが聞こゆ
びんと張る木綿のシャツを帆に見立て初夏の風受け青空渡る
暗闇の布団で澱む初夏の夜を濯ぐ冷たい風流れてく
森で会う熊と戦う想像の中なら私、凄腕狩人
長袖の白きが眩む夏が来て長袖の様な産毛刈り取る